
まずホスピスケアというものはどういうものかというフィロンフィーについてもう一度確認をしておきたいと思います。
ホスピスケアを考えるのに3つの項目を出しましたが(略)、それぞれを個別に扱っていくことはできない、トータルで見ていかなければならないということです。たとえば患者さんの症状のコントロールがきちんとできていなければ、患者さんの病気、それからその患者さんが死にゆくという状態に対する心理・社会的なケアを十分に行うことは不可能です。緩和ケアサービスを提供すると同時に、疾病管理も平行して行っていかなければなりません。患者さんの病態がどうなっているのかという症状を見ながらそれに対応する処置をとっていくことにより、はじめて患者さんのクオリティ・オブ・ライフを向上させることが可能になるのです。
では疼痛とは何かということになりますが、その定義の一例は「組織の損傷に伴う不快な感覚および感情情動の経験である」ということです。この定義に必ずしも賛成しない方もおられると思いますが、ホスピスケアを行っていくものにとって、非常に大きな圧倒的な痛みというのをただ単に肉体的な痛みのみによって捉えることはできないということです。患者さんには肉体的な痛みはもちろんあるのですが、そういう患者さんとじっくりとコミュニケーションをし、どういうことが問題になっているのかということを話し合ってみると、肉体的な痛み以外の痛みがその方にとって非常に大きな部分を占めている場合が多々あります。
それからもう一つは、急性の悪癖と慢性の疼痛の違いをわきまえておく必要があると思います。そして患者さんによっては急性・慢性双方の痛みを伴う場合もあります。そしてとくに慢性の痛みを伴う患者さんの場合に忘れてはならないのは、その患者さんの生活がその痛みという非常に苦しい状態によって、規定されてしまっているということなのです。
癌だからといって、全員が疼痛を伴うわけではありません。しかし、癌患者の80%がどこかのステージにおいて疼痛を体験します。そしてもう一つ忘れてはならないのは、一つではなく複数の痛みを伴う場合があり、80%以上の患者さんにおいて二つ以上の痛みがあり、そして、30%以上の患者さんにおいては四つ以上の痛みがあるということです。ただしこれは患者さんの主観的な体験に基づいています。どの程度痛いのかはその痛みを経験している患者さんによって変わりうるのです。ですから疼痛について調べる場合には、患者さん自身に聞くということが重要です。患者さんの家族や親戚は、患者さんの病気についていろいろな情報を提供してくれる重要な情報源ではありますが、疼痛に関する限り、どこが痛いのか、どの程度痛いのかといったことは患者さんに聞くのが何よりです。患者さんの気分が痛みの閾値に影書を与えていると考えるならば、患者さんの疼痛の閾値を上げてあげるということが大事なのです。夜眠れないと痛みはますますひどく思われます。また不安な状態や鬱状態にある患者さんは痛みの閾値が下がってしまいます。
癌の患者さんの体験している痛みはいろいろな表現方法があると思います。たとえば局所の軟部組織の浸潤によりさまざまな形での痛みが起こることがあります。また、軟部組織の腫瘍で感染症を伴う場合には不快感がさらに増悪します。それから内腔臓器コーリックという通ですけれども、これは必ずしも癌からくる痛みではなく、たとえば便秘その他の問題などによっても疝痛は生じます。筋、骨格痛ですが、これはコントロールが難しいことがよくあります。これらの痛みに対してもオピオイドその他を使うことにより十分にペインコントロールをすることも可能です。
それからまた縦隔、後腹膜の浸潤による痛みですが、これは関連痛である場合が多く、ナースが関連痛まで対応してみていくことが難しい場合がよくあります。ナースであれドクターであれ疼痛の評価をしていく際には、プライバシーあるいは秘密を守ることが重要です。きちんとした信頼関係がなければなかなか患者さんは本当の状態を打ち明けません。
また、言葉に発していない痛みの兆候もきちんと私たちのほうで気をつけてみていないとキャッチができませんが重要な問題です。たとえば患者さんの顔の表情、ベッドにどういう形で寝ているのか、その位置などから患者さんの疼痛についてずいぶんいろいろなことがわかるはずです。また自分の病気に恐怖心をいだいている人はなかなか痛いということを言いたがりません。というのも痛いということを認めることによって、自分がもうすぐ死んでいくのだということを自分自身認めざるをえないというように思っているからなのです。
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